法定後見制度について
法定後見制度
精神障がい(認知症など)により、判断能力が不十分な方は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービス利用や施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があってもこれらの行為をすることが困難な場合があります。また、仮にできたとしても本人だけに任せていたのでは本人にとって不利益な結果を招く恐れもあります。
また、訪問販売などで本人にとって不利益な契約にもかかわらず、本人が正しい判断ができず、相手に言われるがまま契約を結んでしまうなど、悪徳商法の被害にあう可能性もあります。
このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが法定後見制度です。(法が整備される前は、禁治産や準禁治産といった類似の制度がありました。こちらの方をご存知の方も多いかと存じます)
この制度は家庭裁判所に申立てを行い、後見人選任の審判がされることで利用ができます。家庭裁判所の手続を取らずに利用する事はできません。
また、後見人が選任された後は家庭裁判所が判断能力が減少した本人の変わりに後見人を監督します。(個別的なご相談はこちらから)
支援類型と支援内容
法定後見制度には3つの類型があります。この類型は本人の判断能力の喪失程度によって区分されます。わかりやすく表現すると、後見=重度、保佐=中度、補助=軽度となります。なお、判断は家庭裁判所が医師の診断書などをもとにおこないます。以下、少し具体的に説明します。
後見(重度)
後見類型の対象となるのは「事理弁識能力を欠く常況にある」人(民法第7条)、すなわち、重度の知的障がい者・精神障がい者・認知症の高齢者などで、自分だけで物事を決定することが難しく、日常的な買い物も1人ではできない人(一時的に正常な状態に戻ることがあっても、1日のほとんどが判断能力がないという場合も該当します。)が対象となります。
家庭裁判所に申立てを行い、後見開始の審判がなされると、成年後見人が付されます。後見人は、法律上当然に代理権及び取消権があります。
よって、成年後見人は本人に代わって本人の財産を管理し、本人のために介護サービス契約を締結するなどの法律行為ができます。また、本人がした行為は、日常生活に関するものを除き、すべて取り消すことができます。よって、本人が悪徳商法の被害にあったとしても、後にその契約を取り消すことができます。クーリングオフの利用や詐欺の立証も不要です。
□ 保佐(中度)
保佐類型の対象となるのは「事理弁識能力が著しく不十分な」人(同法第11条)、すなわち、知的障がい・精神的障がいのある人、認知症がある程度進行している高齢者など、日常的な買い物なら自分でできるが、不動産の売買など重要な契約はできないという人が対象になります。
家庭裁判所に申立てを行い、保佐開始の審判がなされると、保佐人が付されます。保佐人には民法で定められた「特定」の法律行為についてのみ同意権・取消権(同法第13条)があります。
よって、本人が不動産の売却など重要な財産に関して取引行為をするには保佐人の同意が必要となり、同意なく行った行為は後に取り消すことができます。しかしながら、先に述べたとおり取消すことができる行為は決まっています(同法第13条)。
そこで、本人同意を得て家庭裁判所に申立てる事により、保佐人に「特定」の法律行為(同法第13条)以外の「特定」の法律行為について同意権・取消権を追加したり、「特定」の法律行為について代理権を付与する審判をしてもらうこともできます(同法第13条2項)。
□ 補助(軽度)
補助類型の対象となるのは「事理弁識能力が不十分な」人(同法第15条)、すなわち、判断能力が不十分ながら自分で契約などができるけれども、誰かに手伝ってもらったり代わってもらうほうがよいと思われるような人(軽度の知的・精神障がいのある人・初期の認知症の方)が対象となります。
家庭裁判所に申立てを行い、補助開始の審判がなされると補助人が付されます。しかしながら、補助人には、当然には同意権や代理権がありません。よって、家庭裁判所の審判を通じて、補助人に「特定」の法律行為について同意権や代理権を付与することになります。
なお、補助制度の特筆すべき点は、補助人に「特定」の法律行為について同意権や代理権を与える際に本人の同意が必要となる事はもちろん、補助の申立てにおいても本人の同意が必要となる点です。
つまり、本人にはまだまだ判断能力が多く残っています。そこで、本人に対する援助の必要性及び援助をしてもらいたい範囲をすべて本人が自分の意思で決めれるのです。
利用手順(申立~審判)
法定後見制度の利用手順は大きく6つに分類することができます。
(1) 家庭裁判所への申立て
管轄は、本人の住所地です。後述の必要書類を提出します。
(2) 調査官による調査・審問
申立人、本人、成年後見人(保佐人、補助人)候補者が家庭裁判所に呼ばれて事情を聞かれます(審問)。なお、裁判所によってはあらかじめ予約をする事で申立てを行う日と審問の日を同一にすることができるところもあります。
また、本人が病院に入院をしている場合などには調査官が別日に病院に行き本人面談をすることもあります。
なお、鑑定が必要と判断された場合には、医師に鑑定書を書いてもらう必要が出てきます。
(3) 審判
特段問題が無く、鑑定を要しない場合、申立から1~2ヶ月程度で審判が出ます。後見人には、申立書に記載した成年後見人(保佐人、補助人)候補者がそのまま選任されることが多いですが、場合(本人の通帳から不透明な出金があるなど)によっては家庭裁判所の判断によって弁護士や司法書士等が選任されることもあります。審判が
(4) 審判の確定、登記
裁判所から審判書謄本が本人と候補者に送られてきます。審判書が送付されてきてから2週間で審判が確定します。また、その後に東京法務局でその旨の登記がされます。
(5) 成年後見人などの支援開始
審判が確定したら、成年後見人(保佐人、補助人)は業務に取りかかります。
(6) 成年後見人などの終了
成年後見人(保佐人、補助人)の業務が終了するのは次の場合に限られています
□ 辞任
成年後見人(保佐人、補助人)は、自らの都合で自由に辞任することができません。成年後見人(保佐人、補助人)の辞任は「正当な事由」がある場合に限られ、家庭裁判所に対し申立てを行い、家庭裁判所から辞任の許可がされた場合にのみ、辞任ができます(民法第844条)。
なお、辞任が認められる例としては、病気や高齢、遠隔地への転居などによって成年後見人の職務を円滑に行うことができなくなる場合などが考えられます。
□ 解任
成年後見人(保佐人、補助人)に不正な行為、著しい不行跡、その他後見の任務に適さない事由があるときには、後見監督人、被後見人、被後見人の親族、検察官の請求により、家庭裁判所が成年後見人(保佐人、補助人)を解任することができます(民法第846条)。なお、家庭裁判所が職権で解任することもできます。
□ 本人の逝去
本人が逝去する事によって成年後見人(保佐人、補助人)の業務は終了します。
申立てに必要な書類
法定後見の申立てをするのに必要となる資料は、下記のとおりです。(なお、裁判所によって異なることがありますので必ず管轄の裁判所にお問い合わせ下さい。)
□ 裁判所に所定の様式がある(裁判所で用紙をもらえます)ものとして
- 申立書
- 申立事情説明書
- 本人の状況説明書
- 成年後見人等候補者事情説明書
- 本人の財産目録
- 本人の収支予定表
□ 本人の確認資料として
- 本人の戸籍謄本
- 本人の戸籍附票又は住民票(本籍の記載のあるもの)
- 本人の登記されていないことの証明書
- 本人の診断書及び鑑定連絡票(管轄裁判所で定められた様式のものを使用) □ 後見人等候補者の確認資料として
- 成年後見人候補者の戸籍の附票又は住民票(本籍の記載のあるもの) □ 本人の財産状況等の確認資料、その他として
- すべての不動産の不動産登記簿謄本(法務局の発行するもの)
- すべての預貯金通帳や証書の表紙から記帳されている全頁のコピー(最新の日付で記帳した通帳)
- すべての有価証券(株式、債権、保険及び投資信託など)の残高証明書や通知書のコピー
- 負債を疎明する資料のコピー(金銭消費貸借書、負債の返済計画や残高を疎明する書面、本人と申立人又は候補者との間で債権債務がある場合にはその内容を疎明する資料(領収書等))
- すべての収入を疎明する通知書のコピー(恩給、年金、福祉手当、高額医療費助成金、家賃や地代収入、源泉徴収票、確定申告書(付属資料を含む)など)
- すべての支出を疎明する領収書や通知書のコピー(施設費、医療費、住民税、固定資産税等、年金保険料、健康保険料、介護保険料、家賃(契約書)など)
必要となる費用(実費)
- 収入印紙800円
- 登記印紙2600円分
- 郵便切手(裁判所によって異なります)
- その他鑑定費用(鑑定が必要と判断された場合に金5万円~10万円)